vol.9 腰はからだのカナメ
この連載では「ヒザ」「足関節・足」をとりあげました。これまでは、からだの仕組みやケガ・故障のメカニズム、予防法や治療について勉強してきましたが、今回と次回は「腰」と「肩・ヒジ」について、まとめて学んでいきましょう。
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その1
★知っておきたい腰の仕組みと、起こしやすいケガ・故障
講師…吉田徹 吉田整形外科病院
【腰の仕組みとは】
スポーツで起こる腰部障害の多くは、腰部の骨に原因するものです。腰部の骨には腰推(ようつい)と骨盤(こつばん)が含まれ、これらは体の中心部にあって、腰から上のからだ(上体)を支え、同時に左右一対の下肢で支えられています。スポーツのように、上肢や下肢をすばやく動かしたり、身がまえたりするときには、腰椎はその動きや体の安定を保つ中心となる重要なところです。
人間の体には、大黒柱ともいうべき骨の柱、つまり脊柱(せきちゅう)が頭蓋骨(ずがいこつ)と骨盤の間にあり、首の部分の脊柱を頸椎(けいつい)、背中の部分を胸推(きょうつい)、腰の部分を腰椎(ようつい)といいます(図1)。これらは図2のように、椎骨(ついこつ)という直径3〜5cm、高さ3mほどの円柱状の骨が、椎間板という厚さ0。3〜0。8cmの円板状の軟骨をはさんで結合しており、頚椎に7個、胸椎に12個、腰推には5個の椎骨があります。
椎骨は、椎間関節という両側の小さな関節で連結しており、からだを前屈(前へまげる)したり、後屈(腰をそらす)したりひねったりするときは、これらの関節と椎間板で動くようになっています。同時に推間板は、脊柱の長軸に加わる力に対してクッションの役割も果たします。脊柱は、これらの椎間関節や椎間板、そして周囲の靭帯や筋肉によって支えられ、固定されながらしなやかに動くようにできているわけです。
脊柱の後には、それぞれの椎体の椎弓という骨で囲われた部分があり、頸椎から腰椎、仙椎までのこの筒状の空間を脊柱管(せきちゅうかん)といいます。脊柱管には脊髄神経が通っていて、それぞれの椎体と椎体の間から左右に出ているこの神経の枝の作用で、手、足、腰などの筋肉を動かしたり、また皮膚の知覚(痛みや温度、触感など)を脳に伝える役をしています。以上がせぼね(脊柱)の基本的な形としくみです。
さて、私たち人間の祖先が2本足で立つようになったのは、約500万年前からといわれています。立つことで両手が自由になり、物をつくったり、字を書いたり便利になりましたが、かわりに上体を支える腰に大きな負担がかかることになりました。脊柱、とくに腰の動きについて人間と動物と比べてみると(図3)、大部分の4本足の動物は、からだの軸(脊柱)と走ったり歩いたりする方向が同じで、せぼねはあまり動くようには思えません。ところが人間は立ったがために、からだの前後屈や側屈、ひねりができるようになりました。これらの運動は、主として腰椎で行われます。したがって人間の腰椎はスポーツや日常動作で無理がかかりやすく、障害を起こしやすくなったのです。
【成長期の骨の問題点】
皆さんのような成長期の骨には、軟骨でできた骨端線、または骨端軟骨という成長する部分があります。上肢や下肢の骨では骨端線は関節の近くにありますが、せぼねではそれぞれの椎体の上、下面の辺縁部にある環状骨端といわれる部分です(図4)。この部分は成長期には軟骨で柔らかく、はがれたり、傷つきやすい欠点があります。
また成長期の骨は、骨そのものが全体に柔らかく、弱い。そのため何回もストレスがかかると、鉛(なまり)の板を何回も曲げたり伸ばしたりすると割れる(金属疲労)ように、骨も疲労骨折を起こします。腰の疲労骨折は、からだのどの部位よりもとびぬけて多く、腰椎の椎弓の狭部で起こります。これが思春期脊椎分離癌です。
【成長期の腰部障害】
<1>ショイエルマン病
スポーツによる椎体の環状骨端(図4)の前側部の損傷で始まります。X線像では、腰椎または胸椎下部の椎体の前側部が少し崩れた形を示し、同時に運動時に腰痛が起こります。症状が進むと、数個の椎体の前側部の環状骨端が崩れ、椎体の前側部の高さが低くなり、腰が少し前かがみの状態になってきます。とくに腰を曲げたり伸ばしたりするボートの選手に起こりやすく、野球選手も例外ではありません。軽い例なら、脊柱が前かがみになる前の早い時期に見つけて運動を中止し、脊椎装具をつけて脊椎の運動を制限すれば治まります。できれば、環状骨端軟骨が硬い骨になる17歳ごろまでは、激しい運動を避けることです(図5、図6)。
<2>椎体辺縁分離
椎体の環状骨端の後側部が、おもにスポーツによってはがれて脊柱管内に突出し、脊髄を圧迫するもの。第5腰椎や第4腰椎で起こります。軽ければ軽度の腰痛のみですみますが、剥離(はがれること)の程度が強いと腰痛の他に両背部から両下肢の後側にしびれや痛みが起こったり、また椎間板ヘルニアと一緒に起こることもありまけ。症状の軽い場合はスポーツを中止し、経過を見ます。ただ歩行が可能でも、椅子に腰掛けていると腰痛、下肢痛が強くなり、授業が受けられないほどなら入院、検査が必要です。この疾患は大人になってから椎間板ヘルニアと同時にX線像やCT像で診断されることがあります(図7)。症状が強い例では、手術で脊柱管内に突出した環状骨端部を取りのぞきます(図8)。
<3>思春期脊椎分離症
腰椎の椎体後部にある椎弓の狭部(図2)の、スポーツによる疲労骨折。腰椎の一番下にある第5腰椎にもっとも多く発症します。発症年齢は14歳がもっとも多く、12歳から17歳が90%以上を占め、男子が女子の約4倍の頻度で発症します。兄弟などの家族に青椎分離症の方がいたら、発症する可能性がやや高いので注意が必要です。日本人の男子では5〜7%、女性では2〜4%といわれ、これらのほとんどが9歳から18歳の間に発症します(図9)。MRIが用いられるようになってから、発症早期例を見つけやすくなっていますが、見逃して治療をしないと、疲労骨折部は骨萎縮が起こつて骨が癒合せず、症例によっては分離が拡大し、堆体がずれてしまう例があります。
腰痛があるからといって腰をマッサージをしたり、無理にせぼねの矯正などをすると、疲労骨折部が割れてしまうことがあります。完全に割れてしまうと、いったん痛みが軽くなるので治ったと思ってしまう危険がありますが、そのまま放置すると将来、疲労骨折部が開いて腰の骨(推体)がずれることがあります。発症早期に診断すれば、運動を中止し脊椎装具をつけるか、ギプスで固定することで80%以上の例で骨癒合し治癒します。またたとえ疲労骨折部の骨癒合が得られなかったとしても発症早期に運動を中止し、脊椎装具などをつける保存療法を行うと、分離の骨萎縮が起こらず、大人になっても多くの例で普通の人と同じようにスポーツはできます。
発症早期の症状は、多くは運動中、たとえばバットを振ったとき、走塁をしているとき、また腰を後屈(そらす)したときなどに、瞬間的に腰部に「キヤッ」とする強い腰痛が起こります。一般に、このような腰の痛みがあるのは、運動しているときだけです。このような症状があれば、整形外科を受診すべきです。MRIを撮れば、思春期青推分離症の早期か否かはほぽ確実に診断できます。CT像を撮り、分離の程度によって体幹ギプスまたは脊椎装具をつけます。一般には体幹ギプス0〜2カ月、モの後硬性装具を2〜3カ月つけるか、または最初から青推装具を2〜4カ月つけることで分離部は骨癒合します(図10)。
運動を中止して1カ月間は、疲労骨折の骨吸収期といって、分離部の骨が柔らかくなっているので、この期間は十分腰部を固定しておかねばなりません。またすでに急性期が過ぎて疲労骨折部が分離したままになっている例は、CT像による分離部の形でスポーツが可能かどうか判断できます。分離部の骨萎縮がなければ、普通のようにスポーツは可能です。少しの分離すべりがあっても、スポーツ用装具(腰の前屈はできるが、後屈を制限する)をつけて運動するのがよいでしょう。
<4>腰部堆間板ヘルニア
多くは腰痛と片方の下肢のシビレや痛み、また腰を前屈すると下肢痛があり前屈できなくなることがあります。分離症のように成長期の発症例は多くありません。整形外科を受診することです。腰の椎間板の髄核が脊柱管のほうに突出して神経を刺激するので、スポーツを中止して様子を見てもよいでしょう。授業中、椅子に腰掛けていられなくなったら整形外科を受診して下さい。
<5>腰椎樵間関節が原因の痛み
多くは「ぎっくり腰」です。腰部の椎間関節の「ずれ」で起こります。腰の動きが急に悪くなり、腰が横に傾く場合があります。このようにはっきりした症状でなくても、2〜3週間または1〜2カ月間腰痛があり、下肢には痛みがない例があります。X線像では骨盤が傾いていたり、腰椎が不自然な形になっています。軽い脊柱側弯症のある方に多く起こる傾向があります。治療は、もともとの脊柱のカーブに戻すこと。体をまっすぐに伸ばすことがすべてではありません。マニピュレーションや90−90牽引がよいでしょう。鎮痛剤の内服や腰の湿布、骨盤帯で骨盤を締めたり、あぐらをかかずに正座するのがよいです。早く治療すれば2〜3日、または1週間以内に治ります。
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